【俳優、脚本家:マーク・ゲイティス】マイクロフト・ホームズ俳優のルーツ:一族の土地を取り戻したアイルランドの先祖
プロローグ
人気ドラマ「Shirlock」でシャーロック・ホームズの兄、マイクロフト・ホームズを演じる俳優マーク・ゲイティス。その他「ドクター・フー」への出演や、シャーロックをはじめ様々な脚本も手がけている。
By Gage Skidmore, CC BY-SA 3.0, Link
自分のキャリアは、「体育に対する一大リベンジ」だというマーク。体を動かすことが好きでなかった彼であるが、友人とホラー映画について話すことは大好きだったという。
そんなマークは、母方にアイルランドのルーツがあることに、ある意味執着とも言える興味を持っているという。先祖がアイルランド王だったらいいんだけどな!と冗談を言うマーク。
母方のルーツを探る
マークの母はすでに亡くなっているため、父を訪ね、古い写真や書類を見せてもらう。
母方の祖父、ジェレマイア・オーケイン(O'Kane)は母が生まれた翌年に亡くなったため、母も自分の父親やその家族のことは知らずに育ったという。
祖父はアイルランド北部出身。医者として開業するため、イギリスに移ってきた。写真の祖父は鼻がマークそっくり。この鼻は母方の血であるらしい。
By Fasach Nua(talk) - Fasach Nua(talk), Public Domain, Link
ベルファストに向かうマーク。クイーンズ大学の学籍簿に祖父の名前を見つける。
また祖父の出生証明書から、曽祖母の名前がマーガレット・オーケインであることがわかった。
1939年の、マーガレットの死亡広告記事が見つかる。マーガレットの旧姓はオームラン(O'Mullan)といい、アシュランマドフ(Ashlamaduff) という地域の大地主だったジェレマイア・オームランの娘である、と記されていた。
大地主だった先祖
当時の土地の記録を調べてみると、高祖父ジェレマイア・オームランは、1880年代に700エーカーもの土地を所有していた(東京ドームでいえば、66個分)。イギリスの支配下にあって、数少ない、最大のカトリック系の地主であった。
若い頃のジェレマイアの写真も見つかる。ここでも同じ鼻の先祖の登場に、この鼻、何世紀も呪われてたのか!と笑うマーク。
ジェレマイアの妻の旧姓はオーケイン。先祖ごとにオーケイン、オームラン同士が結婚しているようであるが、実はこの2つの苗字がこの地域には非常に多いらしい。
土地所有に関する書類も確認する。ジェレマイアの父、ジョージ・オームランもアシュランマドフに住んではいたが、その土地の所有者ではなく、小さなロットを借りているにすぎなかった。
息子ジェレマイアは一体どうやって大地主になったのか、謎である。
北アイルランド、イギリス侵略の歴史
アルスター(Ulster)と呼ばれる北アイルランド一帯は、1600年代初頭、ジェームス一世の時代のイギリスに侵略されている。
イギリスは地元の族長達から土地を奪い、ここをプロテスタントの支配下とし、イギリスからの「入植」を進めた。
しかしその中でも、マークの先祖がいた地域は特に入植しにくい厳しい場所であったらしい。当時の記録によると、この地域は非常にゲーリック色が強く(ゲール語を話すなどアイルランド色が強かった)、鬱蒼とした森には狼や、盗賊もいたという。
イギリス政府は、「リヴァリ・カンパニー(livery company)」と呼ばれる団体に入植支援を依頼している。リヴァリ・カンパニーは大工や商人、魚屋など、職業別のギルド、同業者団体が法人化したもの。
政府は土地に住む地元のアイルランド人を追い出し、リヴァリ・カンパニーによる土地の所有、管理、入植を進めさせた。当時、地元アイルランド人が所有する土地は10%ほどしかなかったという。
リヴァリー・カンパニーは、アイルランドへの入植者を募るが、その厳しく敵対的な環境からうまく行かず、結局ジョージの時代、これらの土地は地元民に貸し出されていた。ジョージはその中でも、「グラック」と呼ばれる土地を借りていた。
現在のグラック。通り名しか残っていないが100人ほどが居住しているという
当時のグラックについて記録が残っていた。
「グラックは苔と山しかない場所で、ローマンカトリックしか住んでいない。耕作可能だった平地の賃貸契約が終わってしまった後、彼らはこの寒くて何もない、グラックの山間部にに追いやられた。入植以前、この地はオーケイン一族が支配していた。また山の麓はオームラン一族のものであった」
Photo © John Naylor (cc-by-sa/2.0)
グラックの近くにある森
なんと、自分の先祖はジェントリー(地主)だったのか!と喜ぶマーク。アイルランドでは、このような地主はもともと王だったという。
しかし一族の長は皆「王」だったので、アイルランドには王が200人はいたと聞き、それは多すぎるな!とマーク。
実際に地域を車で走っていると、オーケイン、オームランの名がついた店の看板をたくさん見かける。この土地の王に返り咲くには、親戚をずいぶん倒さないといけないようだな・・とマーク。
地主と地元民の間にいたジョージ
ジョージが借りていた土地を訪ねる。
ジョージの妻はブリジット・オーケイン。ここでもまたオーケインの名前が出てきて笑うジョージ。
子供は8人いたが、彼が借りていた土地は家族を十分養えるほど豊かではなかった。
ジョージはロンドンの魚屋によるリヴァリ・カンパニー、Worshipful Company of Fishmongersから土地を借りていたが、家計を助けるため、同時にこの会社に雇われてもいた。
地主であるリヴァリ・カンパニーは、この土地を主に放牧に使っていたが、高地の痩せた土地を借りている地元民達が、十分な牧草が無くなると会社の土地に牛を連れてくるのを嫌っていた。
ジョージはこのような地元民が入り込まないよう土地を管理、また土地の賃貸料を地元民から徴収する仕事を任されていた。
1820〜30年代には人口が増加し、人々の暮らしはより苦しくなった。このため、土地所有者と地元民の間での緊張は高まっていった。
この頃、「キャプテン・ロック」と名乗る地元民たちのグループが、ジョージのような土地管理人に暴力的制裁、時には殺人を行うケースも多かったという。
実際にジョージも1827年、管理地に侵入してきた地元民の牛を捕らえた仕返しに、家を焼かれる被害にあっていた。
抑圧されていた地元の人たちのことを考えると、複雑な気持ちになるマーク。ジョージは地主、地元民の間に挟まれ、難しい立場にあったと言える。
ストーリーテラー、ジョージ
ジョージはもしかして村八分にされていなかっただろうかと心配になるマーク。
当時、北アイルランドの測量調査を行うプロジェクトが進んでおり、ジョン・オドノバンという人物が、この地域を調査していた。
彼がロンドンに書き送った手紙に、ジョージが登場している。
オドノバンは地域でももっとも「ワイルド」な場所であるグラックでジョージに出会う。ジョージは非常に聡明な人物で、アイルランド語をはじめ、この地域のことを色々と教えてくれたという。
手紙にも、ジョージから教えられた情報が書かれていた。これだけ色々と地元の情報に詳しかったということは、地元の人達と距離があった、ということでは決してないと思う、と専門家。
アイルランドの歴史は口承の歴史でもある。オドノバンはそのような情報も集めており、ジョージは彼に自分の先祖の武勇伝「オーケインの運命」という話をし、その内容も手紙に残されていた。
おそらくこれ以外にも、もっと色々な話をしたに違いない。脚本家でもあるマークは、先祖にストーリーテラーがいたことを喜ぶ。
地元の吸血鬼話
地元の民話研究者に話を聞くマーク。口承で歴史や事実を伝えていく伝統は、話が大きくて面白いほど長く伝わっていく。そのせいか、この地域には妖怪やモンスター的な話が多く残っているという。
ホラー映画好き、吸血鬼好きなマーク、オーケイン一族が関係している吸血鬼(アイルランド語でデルグデュール)の話が載った本を手渡される。
話の舞台となった夕暮れの丘の上に行き、本を開くマーク。
アバタック王の恐怖政治に疲れた民が、オーケインの王に暗殺を依頼する。アバタック王は殺され、一族の長の埋葬方法として、立ったまま埋葬されたが、翌日生き返って生き血を求めてきた。
聖職者に相談したオーケインの王は、吸血鬼と化したアバタック王が生き返らないよう、特別な木でできた剣で殺し、逆さに埋葬し、その周辺をイバラで囲い、上に石を置いたという。今でも地元の人は、夜、この場所には近寄らないという。
きっとジョージもこの話を知っていただろう。そしてオドノバンにも語ったかもしれない。
子供の頃ホラー映画の見過ぎかもしれないし、あまり美化してもいけないとは思うが、自分のストーリーテラーとしての血がどこからか来ているかと考えると、やはりここなのかもしれないと思う、とマーク。
ジョージのその後、大地主となった息子
ジョージのその後を追う。
1836年、ジョージは厳冬で15頭の牛、そして馬を失っていた。状況を立て直すため借金をし、さらに土地を借りていた。
しかし1845年、アイルランドをジャガイモ飢饉が襲う。ジャガイモの不作がきっかけとなった飢饉で、実に100万人が亡くなり、多くの人々がアイルランドを後にした。
ジョージの息子5人のうち、4人はニューヨークやオーストラリアに渡ったが、ジェレマイアだけが地元に残った。
ジョージは1852年にはグラックの土地を手放し、1861年にはアシュマンラドフで亡くなっている。
ではなぜどうやってジェレマイアは大地主になったのか。
1875年、オーストラリアに移民していた兄が亡くなる。現地で成功していた兄は、現在の価値で5700万円ほどの遺産を残しており、その一部を弟、ジェレマイアが受け継ぐことになった。
1891年、ジェレマイアがアシュマラドフの土地を買った時の文書が見つかった。兄からの遺産で、他の良い土地を買うのではなく、もともと一族の土地だった場所をイギリスから買い戻したのであった。
アシュマラドフへ
この土地って、僕の?と聞くマーク。
実際は彼の親戚、ジェレマイアのひ孫であるベティー・アンという女性が所有者となっていた。
ベティー・アンに会うマーク。彼女の息子もやはり同じ鼻をしているという。
ニューヨークで生まれた彼女であるが、家族はアイルランドに戻り、アシュマラドフで育ったという。
今はこの土地はオームラン家のいとこに貸しており、農場はまだ運営されていた。
今は廃屋となっている、彼女が育った家を見るマーク。
家族はオーストラリアやニューヨーク、色々な場所に散っていったが、この土地、この場所に戻りたい、という気持ちがとても強いことを感じた。
ジェレマイアも、この地で1908年、75歳で亡くなったという。
エピローグ
この地の「王」であった先祖。その土地を奪われ、土地から追いやられ、そしてその土地を取り返す・・。まるで西部劇のようだ。アイルランドが舞台の西部劇の映画を作ろうかな、とマーク。
この旅は本当に楽しかった。またここに戻ってきたい。次は軍隊を連れて自分の王国の一部を取り戻すとしようかな。
ひとこと
気がつけば、シャーロックのキャストの人も何人かこの番組に登場していましたので、ぼちぼちご紹介します。
マイクロフト役のマーク・ゲイティスの回は、結構地味な内容、でもアイルランドのディープな歴史を知ることができる回でした。
今でもアイルランドの北部の一部だけイギリスですが、彼が言うように、地元のアイルランド人から入植者が土地を取り上げ、彼らがどんどん痩せた土地に追いやられる・・というシチュエーションは、西部劇と言いますか、ネイティブアメリカンが経験した、アメリカ入植の歴史を彷彿とさせる部分もありました。
それにしても、アイルランド訛りはよく聞かないと時々よくわかりません(笑)発音と言うよりイントネーションが微妙に違うので、一瞬「今のは英語だった?」と思うようなことも。
またアイルランドの地元の言葉、ゲール語も英語とは全く違います。発音も喉から出すような音があってカタカナ表記がほぼ不可能だったり、土地名も、英語読みとは微妙に異なったり。
そしてアイルランドというと、やはり不思議な民話、何か神秘的なものがたくさんある・・というイメージは実際にあります。それこそ、セントパトリックスデーに登場する緑の小さいおじさんもその一つですね(笑)小さい時からホラー映画が大好きだったというマークさんが喜ぶのも頷ける感じでした。
シャーロックのキャストのファミリーヒストリー、こちらもどうぞ(残念ながらカンバーバッチさんはまだ登場していません)
familyhistory.hatenadiary.com
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