世界のセレブ・ファミリーヒストリー

世界のセレブ・ファミリーヒストリー

英・米・豪・加で放送されている「ファミリーヒストリー」的番組 Who Do You Think You Areの興味深いエピソードを紹介します。セレブの家族史を通じて、世界の知らなかった出来事が見えてくる。今の世界を知る上でも、個人を知る上でも、色々興味深いこと満載です。

【女優:キム・キャトラル】SATCキャストのルーツ:70年前突然消えた祖父

プロローグ

テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティー」のサマンサ・ジョーンズ役で有名な女優キム・キャトラル

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By George Pimental - Flickr: 'Meet Monica Velour' 1, Canadian Film Centre, CC BY 2.0, Link

多くの人が彼女を奔放なニューヨーカー、サマンサ役に重ねるが、ルーツはイギリス。リバプールで生まれ、リバプールが故郷だという。

キムが知りたいのは、母方の祖父、ジョージ・バー(Baugh)について。祖父は約70年前、キムの母が8歳の時に蒸発し、その後の消息は不明である。

突然消えた祖父

母と叔母達を尋ねるキム。

家族に残された祖父の唯一の写真は、75年前、親戚の結婚式で撮られた集合写真。

しかし皆が集合している写真の中に祖父の姿はない。彼は集合写真には参加せず、その後ろの建物の窓の中から、カーテンの影に隠れ、顔を少しだけ出した状態で写っているだけだった(下の写真、カーテンが少しめくれているところに顔がある)。

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これほど顔を隠したがっているのはなぜだろうか。

自分の父親が蒸発した日のことを覚えている母。当時8歳だった母は、朝早く、窓をノックする音がするので開けると外に父が立っており、鉛筆や塗り絵などを見せて、自分と一緒に来ないかと聞かれたのだという。でも行かないと答えると、父はそのまま行ってしまった。

話しながら涙する母と叔母達。

大恐慌の影響が色濃く残る時代、残された家族は生活のすべがなく、家財道具を売り払い、貧しい生活を強いられることとなった。

家具も無く、暖を取る火、食べるものさえ手に入らないこともあり、ゴキブリやネズミがいるような過酷な生活環境であったという。

しかし親戚やキムの母親にとって祖母にあたる人も近所に住んでいたにもかかわらず、援助の手は一切差し伸べられなかったという。

祖父の妹一家を探す

キムの母が、祖母(キムの曽祖母)のことが載っている地元の新聞の切り抜きを持っていた。

それは、祖母が自分の娘のために作ったウェディングドレスを、今度は孫が着て結婚式を挙げたことを紹介するものだった。

「バー家の子供達には私が作ったウェディングドレスを」と記事では語られているが、同じ孫であるはずのキムの母や叔母達は、まるでバー家の一員としてはみなされず、完全に無視されてきた形であった。

新聞記事で紹介されていた「娘」エドナ・バーは、キムの祖父の妹にあたる。そして母から受け継いだウェディングドレスを着た「孫」の名前はレスリーラドクリフ

70年たった今も、母や叔母達の心の傷が深いことに驚くキム。そして小さな娘3人を、金銭的な援助もないまま残して消えた祖父に怒りを覚える。

キムはまず母のいとこにあたる、レスリーラドクリフを探すことにする。

大叔母達との再会

当時の新聞記事を頼りに、レスリーラドクリフの家を尋ねるキム。ドアをノックしたが留守であった。

しかし隣人がレスリーの母、キムにとっては大叔母にあたるエドナが健在なこと、またキムの祖父には妹が2人いること、そして彼女達の連絡先を教えてくれた。

連絡先を訪ねると、祖父が蒸発した時はまだ子供だったという大叔母2人がキムを迎えてくれる。

兄ジョージは一箇所にじっとしていられない人で、時に警察が彼を連れ帰ってくることもあったという。

また結婚生活が幸せではないという話をしていたことを覚えていた。彼の母親は責任を持って家庭に戻るよう説得したが、結局蒸発してしまったのだという。

これは当時大きなスキャンダルであり、以降彼のことは一家の恥として、あまり触れられることはなかった。

大叔母達も、祖父の写真は一枚も持っていなかった。蒸発後、彼から連絡が来ることも一切なかったという。彼女達も、自分達の兄がどうなったのか知りたいと心から思っていた。

新しい家庭を築いていた祖父

リバプール滞在中のキムに書類が届けられる。

それは当時30歳の祖父が、21歳のイザベラ・オリバーと結婚したことを示す結婚証明書であった。

結婚したのは、まさに蒸発した翌年の1939年。しかも蒸発した際、離婚したわけではないため、重婚したことになる。

サノバビッチ・・とつぶやくキム。

祖父は自分の名前を変えるでもなく、リバプールから3時間ほど北にあるダーハムという街の近くの小さな村に、新しい妻と住んでいた。

住民簿を見ると、妻の親戚達に囲まれて暮らしていたようである。

また3人の子供にも恵まれていた。キムより後に生まれた子供さえいた。

子供の誕生記録を見る限りでは、少なくとも1959年まではこの村に住んでいたようだ。

祖父が住んでいた村に向かうキム。そこで地元のパブに立ち寄り、このあたりでバーという苗字を聞いたことがないか尋ねる。

心当たりは見つからなかったが、そこにあった電話帳に、妻の親戚と思われるオリバー家の電話番号があった。

電話してみると、電話に出たのは、イザベラの弟の妻・・つまりジョージにとっては義理の妹にあたる女性であった。

明らかになる祖父のその後

祖父の義理の妹に会いに行くキム。

当時彼らは隣同士で暮らしていたといい、ジョージとイザベラはとても良い夫婦だったという。

2人はマンチェスターで出会い、実は子供は4人いるという。最初の子供はマンチェスターで生まれたため、村での出生記録に残っていなかった。

2人の結婚式の写真もあったが、なぜか自分の結婚の写真であるにもかかわらず、祖父の姿が切り取られていた。写真を撮られるのが嫌いであったようだ。

過去のことは全く話さない人だったため、イザベラも彼が過去に結婚し、子供がいた事は知らなかったようだ。彼らにとってもジョージが過去に幼い娘3人を捨てて家を出たという事実は非常に驚きであった。

その後ジョージは海軍に入隊した。海軍の制服を着て家族で写っている写真を見るキム。初めて見る祖父の顔だった。「海軍に入ったのね。でも彼は英雄では全く無いわね」

次に見せられたのは、家族でビーチでくつろぎ微笑む写真。過去を背負って少しでも影のある表情をしていたならば少しは許せたかもしれないが、過去は完全に捨てて、振り返りもしなかったのではという満ち足りた表情に悲しみを覚えるキム。

自分の祖父についてはネガティブなイメージしかない一方で、話を聞くと、楽しくて良いおじさんだった、という事実にも複雑な気持ちになる。

そして最後に出てきたのは、船の甲板で撮られた家族写真。それは彼らがオーストラリアに移住した時に撮られたものだという。

突然の移民

ジョージ一家は1961年、突然オーストラリアに移住していったのだという。

家族を伴ってはいたが、いきなりの決断に、妻の家族はこれでもう二度と会うことはできないと悲しんだという。ここでも身勝手なことをした、彼らしい、と考えるキム。

その後ジョージ・バーは1974年にオーストラリアで亡くなったという。またイザベラも1990年に死去している。

祖父ジョージ・バーは思った通りの人物であった、これからオーストラリアまで行って調査を進め、さらに彼がどれだけ身勝手だったかをこれ以上知る価値があるのだろうか、と考えるキム。

ここで調査はやめ、今まで分かったことを母と叔母達に伝えることにした。

明かされる真実

母、叔母達にジョージ・バーのその後の足取りを伝えるキム。

家族を捨てた父に怒りを感じる母、叔母達は、時を待たずに名前さえ変えずに結婚した父に驚き、自分の結婚式の写真を切り取ったことにも、重婚という犯罪を犯したのだからこうしたのだろう、彼ならやりかねない、と呆れる。

しかし父の写真を見て、父が消えた当時1歳だった叔母が号泣。全てがトゥーマッチだと皆堰を切ったように涙を流す。

海軍の制服を着て写っている祖父であったが、実際に戦闘に参加することはなく、ドックに勤務していたという。「やっぱりね」と答える母。

自分たちを捨てた罪の意識は少しでもなかったのか、と問う母や叔母達には、ビーチで微笑む家族写真は酷なものであった。

何も心配せず、幸せに微笑む家族の写真。彼の中で、自分達の存在は完全に消されていたのだ、と考える。

しかしこうやって事実を知ったことで、これからは父がなぜ消えたか、何があったのかを意識的に考える必要がなくなったので安心した、でも今の私達を見て、自分がしたことを後悔してほしい、と答える母。

エピローグ

この旅は母や叔母達のためにしたものであったが、非常に辛いものだった。でも同時に、ジョージ・バーがしてきたことを明かした瞬間、自分の母や叔母達がどんなに強い女性であるかを目のあたりにすることができ、自分に今ある家族がどんなに素晴らしいかを知ることができたことが、何よりのギフトであった。

その後キムの母、叔母達はオーストラリアにいるきょうだい達と連絡をとりあうようになったという。

ひとこと

セックス・アンド・ザ・シティつながりで、キム・キャトラルの回も紹介しました。もともとイギリス版で放送されたものですが、後にアメリカ版でも放送されました。

この番組、当時の歴史や社会を知ることもできる点が面白いところでもありますが、この回は蒸発した祖父個人に焦点を置き、とにかく人探しをするという、とてもパーソナルで、そしてとても感情にも訴える回でした。

少ない情報をもとに、親戚などを見つけじわじわと核心に迫っていく・・というのも、ある意味ちょっとサスペンスではありましたが、父に捨てられたキムのお母さん、おばさん達の真実を知った時の反応がなんともいえませんでした。

特にキムのお母さんは長女で、父親がいなくなった時の記憶もあるからか、真実を告げられた時、叔母達が涙を流しているのに対して、かなり背筋をしゃんとして毅然としていたのも印象的でした。

また突然のキムの訪問に対応してくれた、祖父の二度目の家族の人達・・。彼らにとっては良い人だったのに、急に彼の隠された過去が明らかになり、さらにキムが昔の写真を見ながら彼は身勝手な人だなどとネガティブなことを色々というので、「本当にそうですね・・」と相槌はうっていましたが、かなり戸惑っているのではと思いました。

そういった点でもこのおじいさんは色んな人に迷惑をかけまくっていますね。親戚の結婚写真に、窓の中のカーテンの影からまるで亡霊のようにしか顔が写っていないのも異様でした。

そしてキム・キャトラル、やはりサマンサの役のイメージがつよすぎますが、もともとイギリスの人だったのですね。母や叔母達と、お茶はいかが?などといかにもイギリス人的な会話をしているのが、すごく不思議な感じがしました。

<イギリス版、アメリカ版、2009年>

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