世界のセレブ・ファミリーヒストリー

英・米・豪・加で放送されている「ファミリーヒストリー」的番組 Who Do You Think You Areの興味深いエピソードを紹介します。セレブの家族史を通じて、世界の知らなかった出来事が見えてくる。今の世界を知る上でも、個人を知る上でも、色々興味深いこと満載です。

【女優:シンシア・ニクソン】SATCキャストのルーツ:先祖は斧を手にした殺人鬼?

プロローグ

シンシア・ニクソンはテレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」の弁護士、ミランダ・ホッブス役で有名な女優。

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ニューヨークで生まれ育ったシンシアの両親は彼女が6歳の時に離婚。

普段は母と暮らし、週末になると父の家に行く生活であったが、父はとても可愛がってくれ、仲がよかったという。父はあまり自分のことを話さなかったので、彼のルーツについて知りたい。

マーサの夫はどこに?

ニューヨーク歴史協会を訪ねるシンシア。

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観光地としても有名なニューヨーク歴史協会

国勢調査などの情報から、自分から4代前の高祖父母の名前がわかる。高祖父はサミュエル・ニクソン、高祖母はメアリー・M・ニクソン。だが高祖母の旧姓がわからなかった。

そこでメアリーの死亡証明書を確認する。そこにはミズーリ生まれと記されていたが、父親の名前は不明とあった。母親の名前は、マーサ・カーナット(Curnutt)。

ここから、ミズーリでの結婚記録を探すと、マーサは1839年ノア・キャストー(Casto)という男性と結婚した記録が見つかった。

さらに1850年国勢調査を調べる。数年に一度行われる国勢調査であるが、この年から、家長だけでなく、家族全員の氏名、年齢が記載されるようになったのだという。

不思議なことに、マーサ・キャストーで調べても何もでてこない。

しかし旧姓であるマーサ・カーナットで調べると、38歳のマーサが、3人の子供メアリー、ノア、サラとともに、実家に身を寄せていたことがわかった。

また子供達の苗字は父親のキャストーではなく、カーナットとなっている。果たしてマーサの夫に何があったのか。

3人目の子供の父親は?

情報を探るため、次に見たのは南北戦争関連の記録。当時多くの人が、南北戦争後に年金の申請をしたという。申請書には家族構成や申請理由なども書かれているため、そこから何かわかるかもしれない。

南北戦争勃発時18歳だった、マーサの息子ノアの情報を探してみると、戦争から20年後の1881年の申請書が見つかった。

さらに申請したのはノア本人ではなく、母親のマーサであった。申請当時ノアは既に亡くなっていたようだ。

これらの情報は全てオンラインで調べることができたが、申請書に書かれている詳細は実物を見る必要がある。申請書を見るためワシントンDCのナショナルアーカイブに向かう。

実際の申請書を見てみると、申請書が提出された時マーサは69歳。ノア南北戦争で亡くなっていたことがわかった。

息子に頼って生活していたこと、夫は1842年に亡くなったと記されていた。

1839年に結婚し、シンシアの高祖母メアリーが生まれたのが1840年。まだ幼い時に父が亡くなっていたことがわかった。おそらく息子ノアはまだ母親のお腹の中にいたかもしれない。

しかし次女サラは国勢調査から1844年生まれであることがわかっている。ということは、夫ノア・キャストーの子供ではないということになる。

サラは誰の子供なのか?しかも子供達が、亡くなった夫の苗字を引き継いでいないのはなぜか?

ミズーリ州の記録に何かないか調べてみると、1843年、マーサ・キャストーの名前で裁判記録が見つかる。しかもそれは、殺人事件に関するものであった。

1843年の殺人事件

裁判記録には、マーサ・キャストーが過失致死で有罪になったことが書かれていた。しかし被害者が誰かについては書かれていない。

マーサ達が暮らしていた地域の歴史を記した本に、彼女が犯した殺人事件についての記述が残っていた。そこには、夫ノアが就寝中、マーサが斧で彼の頭を殴り殺したと書かれていた。またマーサが州の刑務所に入った歴史上2人目の女性であったことも記されていた。


事件の起きたミズーリ州バリー郡

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バリー郡裁判所

夫の死亡年は、年金申請書では1842年となっていたが、裁判記録では1843年。もし裁判記録が正しければ、1844年生まれの娘サラは夫の子供だった可能性はある。

マーサは妊娠中に夫を殺し、刑務所で子供を産んだということだろうか?

事件の真相

当時地域で発行されていた新聞を調べる。事件が起きた1843年7月のマイクロフィルムを調べると、「Horrible」というタイトルの記事が出てきた。

記事は、伝聞という形で書かれており、「この事件について語った人はその男性の名前を忘れてしまったということだが」という書き出しで、マーサやノアの名前は出てこないが、明らかにこの事件について触れられている。

それによると、想像もつかないような、言葉にするのも憚れるような、ひどい扱いを妻にしているある男性がいた。その男性はある日妻を起こし、自分と子供2人の朝食を作るよう要求した。また日没までにはお前の命はないから、せいぜいお祈りでもしているようにと妻に言った。

妻はキッチンで火を起こしたあと、ベッドでまだ眠っている夫を見て、斧をつかみ、彼の頭を斧で打った。斧は夫の目と目の間を通り、頭部が割れ、即死だったようだ。

妻はその後近所に走り、何が起きたかを話したという。当時の状況から、夫を殺さなければ、自分が殺されるような状況であったと考えられる。

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19世紀のアメリカでは当時女性の権利はなく、特に結婚すると、女性が持っていた財産や土地なども、全て夫の所有となった。また夫が妻を物理的に「罰する」ことも、法律で許されていたという。

新聞記事では、夫が妻を「不自然な形で」ひどく扱っていたとあり、おそらくひどい性的虐待があったのではないかと読み取れる。

ミズーリの何もない土地、夫に虐待され、周囲に頼れる家族もなく孤立し、マーサはギリギリの状態だったのではないか。何もしなければいずれは自分だけでなく、夫に子供達まで殺されると考えたかもしれない。

さらに過酷な刑務所での出来事

当時唯一の女性受刑者だったというマーサの刑務所での生活はどんなものだったのか。

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現在は閉鎖されているミズーリ州刑務所の建物

その頃のミズーリ州刑務所では男性受刑者が800人ほどいたが、もちろんマーサがその中に混じることはなく、食事なども独房で取り、刑務所の外で、判事の家で働くなどしていた。

マーサと同時期にこの刑務所で服役し、その頃の様子を本に書き記した元受刑者がいた。本にはマーサのことについても書かれていた。

それによると、マーサは当初判事の家で働かされていたが、判事の妻の虐待があまりにも酷く、逃げ出そうとしたという。

それが原因で独房に入れられ、しばらくは食べ物もあまり与えられなかったという。

その後、秋には刑務所で出産した。

マーサが刑務所に入所したのは1843年の8月、そして出産は1844年の秋。つまり父親は夫ノアではなく、他の誰かということになる。

子供の父親が誰かは今となってはわからないが、彼女にアクセスできた人物は、独房の鍵を持っていた看守や、働かされていた家の判事など、限られた人間だけであったはずである。

出産の時は、医者は独房に来るのを拒み、判事の妻(おそらく彼女の世話をしていた?)も人を近づけず、マーサは1人で出産しなければならなかった。たまたま近くにいた受刑者がずっと付き添ったというが、彼女を助けたのはこの受刑者1人だけであったという。

生まれた後も判事の妻が彼女や生まれた子供を人から遠ざけ、世話をさせなかったため、産後1週間の間、冬の寒い中、冷たい独房の中で過ごさなければならなかった。

冬の厳しいミズーリでは、暖をとるために独房の中にもストーブはあったが、火を使うことも禁じられ、子供には服も与えられず、しばらくは裸であったという。

その後ようやく独房から出されたというが、おそらく刑務所内で妊娠出産があったことを隠すため子供を意図的に殺そうとしたのではないかとも考えられる。

夫を殺すことで最悪の状態から逃れられると思ったマーサであったが、刑務所でさらに酷いことが起こった。刑務所内で唯一の女性だというだけで恐ろしいが、実際にこのようなことが起こったのを目の当たりにすると、本当に恐ろしいとシンシア。でも子供を守ろうと必死だったに違いない。

恩赦

マーサの懲役は5年だったが、結局2年後に恩赦され、出所することができたという。

ミズーリ州アーカイブに恩赦の記録を探す。

そこで見つかったのは、1844年に出された上申書。マーサが寒い刑務所の中で酷い環境にいたことを訴え、恩赦を要求したものであった。

またその署名欄を見てシンシアは驚く。何人もの人々の署名がそこにされていた。

その書類を裏返すと、裏にもさらに何十人もの署名があった。

しかもその署名は、のちに議員や知事になるような人物など、普通ならば貧しい女性1人のためにこのような署名をすることがあまり考えられないような、当時の有力者のものであった。

マーサや子供に対する同情もあっただろうが、刑務所で子供が生まれ、死んでしまったとなると、大スキャンダルとなるのを避けたいという政治的な意図もあったと思われる。「政治は時には有用ね」

マーサのこの経験、そして政治家が動いたことは、女性受刑者に対する待遇が大きく変わっていくターニングポイントになったという。

マーサはその後、1887年に75歳で亡くなった。

エピローグ

マーサの墓を訪れるシンシア。マーサの娘であり、シンシアの高祖母であるメアリーとその夫サミュエル・ニクソンの墓もあった。

「ここに来れて良かった」とお墓に語りかけるシンシア。

マーサの人生がどれだけ大変なものだったか、100年以上経って知ることになった。

誰も助けの手を差し伸べず、孤立無援だったところで何とか助けられ、刑務所を出て新たな生活を始めることができたマーサ。どんなに可能性が低くてもそれをうち破り、諦めずに進んでいったことはすごいと思う。自分も強い人間だと思うけれど、マーサはそれ以上。

そして自分で思っていなかったような形で歴史を作り、女性受刑者の待遇改善など、確かに歴史の中で何かを変えた。酷い出来事だったが、その中から何かポジティブなことも起きた。

ひとこと

セックス・アンド・ザ・シティ」のキャストの人、思えばこの番組でたくさん取り上げられているなと気づいたので、「ミランダ」の回も紹介してみました。出ていないのはシャーロット役のクリスティン・デービスだけかも。Mr.Bigのクリス・ノースも実はこの番組で先祖探しをしています。

タイトルは殺人鬼、なんて書いてしまいましたが、夫のDVから逃れるための殺人、そしておそらく刑務所でのレイプ、さらに非道な環境での出産・・など、見ていて震えがくるほど酷い話でした。

恩赦されて良かったですが、ミズーリの刑務所、今は閉鎖されている古い建物、外も中も陰惨で、当時もかなり無法地帯だったはずです(余談ですがこの建物は霊が出ると言って、よくアメリカの心霊系番組でも紹介されていた気もする・・それくらい怖い感じの建物)。

そんな中生き延びた先祖は、精神的にも肉体的にもとても強い女性だったのでしょう。ため息が出ました。

またこの回は、家系学調査の基本的な手順を知る上でも参考になる回でした。

アメリカ、イギリス、オーストラリアなど、昔の国勢調査ディレクトリーの情報は公開されていて、オンラインで簡単に調べることができます。

特にアメリカ版では、ancestory.com という先祖調査情報ポータルがスポンサーなこともあって、ここのサービスも多様されていますが、軍の記録、移民の乗船記録や婚姻、出生、死亡記録、そして墓石の情報まで、ありとあらゆる情報がオンラインにあがっています。

移民の国だからか、こういう情報を駆使して自分の先祖の家系図を作ることを趣味にしている人も多いですね。

また地元のアーカイブや図書館に行くと、オリジナルの書類が残っていて、きちんと整理されていて、アクセスできるところもすごい。

記事を書く上では省略していますが、番組では行く先々で歴史学者や当時の専門家、調査員がいて、調べ方を教えてくれたり、事前に調査したものを見せてくれたりしています。

その土地の歴史や、刑務所での経験を書いた本など、多分個人が出版したような本も、よくとってあったな、よく見つかったなと感心しきりでした。

先祖がみんな日本人な私はこういった情報を活用できないのが残念。

日本では古い国勢調査の情報をみたりできるんでしょうか?戸籍の情報なども、一定期間すぎると破棄されたりするんでしたっけ?

やはり古い書類や情報などは、きちんと記録・記憶・保存しておいて欲しいな、と思いました。

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<アメリカ版、2014年>

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